社団法人 日本ピアノ調律師協会北海道支部平成18年度事業 "4月4日はピアノ調律の日" 記念レクチャー&コンサート

大作曲家とピアノ

新シリーズ第1回>

ウィーン古典派とドイツロマン派の響き


 平成12年4月4日から始めた「ピアノ生誕300年」シリーズは、昨年の第5回目をもって終了とし、今回から新

しいシリーズ「大作曲家とピアノ」をスタートすることになりました。会員の努力の積み重ねとその充実した内

容が多くの音楽ファンの関心を集め、2年連続でソールドアウトを達成して定着した調律の日コンサートを、

らに前進させ、魅力あふれるコンサートになるよう準備を進めております。

 この企画は、ウィーン芸術史博物館専属フォルテピアノ修復師としてなど、世界的に活躍されている山本宣夫

氏製作の一連のレプリカまたは修復ピアノによる演奏会シリーズです。今回は山本氏が収集し改造復元した18世

紀末製のヨハン・アンドレアス・シュタインと、1846年ウィーン製のヨハン・バプテスト・シュトライヒャーを

修復した2台のピアノを、例年のように大阪堺市からフェリーにて運んでいただき、山本氏のレクチャーと、昨

年5月モスクワで開催された「第1回リヒテル国際ピアノコンクール」で第2位の偉業を成し遂げた、京都市立

芸大講師(室蘭市出身)の上野真氏の2年連続となる演奏で当時の作品を聴いていただきます。ピアノの発展過

程と新しいピアノの誕生に託して生まれた名曲などから、大作曲家が抱いた当時の夢や時代背景などを想像する

ことができる、有意義で楽しいコンサートになることと思います。




●ヨハン・アンドレアス・シュタイン
 Johann Andreas Stein
 ・18世紀末改造タイプ、改造修復/山本宣夫
 (復元楽器)
 ・5オクターブ(FF〜f3)
 ・長さ 2160 mm 幅 970 mm
 ・ドイツ式 (ウィーン式) アクション
 ・ひざペダル(ダンパー付)

●ヨハン・バプテスト・シュトライヒャー
Johann Bapttist Streicher
 ・1846年ウィーン製、修復/山本宣夫
 (オリジナル楽器 No.4616)
 ・85鍵(AAA〜a4)
 ・長さ 2460 mm 幅 1370 mm
 ・アングロジャーマン・アクション
 ・テンションバー2本


上野 真 Ueno Makoto ピアニスト

<第1回リヒテル国際ピアノコンクール第2位 (2005年)>

 1966年生まれ。1982年よりカ−ティス音楽院にて故ホルヘ・ボレット、ゲイリ−・グラフマン両氏に、その後ザルツブルグのモ−ツァルテウム音楽院にて、ハンス・ライグラフ氏に師事。メリ−ランド、ベ−ゼンドルファ−・エンパイア (ブリュッセル)、ジュネ−ヴ、オルレアンなどの、国際コンク−ルで入賞。
 国内では、京都市交響楽団、大阪シンフォニカー交響楽団
、札幌交響楽団、日本フィル、新星日響、オ−ケストラ・アンサンブル金沢、東京佼成ウィンドオーケストラなど、海外では、ワシントン・ナショナル響、スイス・ロマンド管、チュ−リヒ室内管などと共演。2004年オクタヴィア・レコ−ド/SPEXレ−ベルから、リスト・超絶技巧練習曲全曲とトランスクリプションのデビュ−CDをリリ−ス。2005年同オクタヴィア・レコードからは E.バイノンとのデュオのCDもリリースされている。
 2005年3月青山バロックザール賞、京都市芸術新人賞受賞。6月モスクワで行われた第1回リヒテル国際ピアノコンクールにて第2位入賞。2006年9月ソロCD第2弾(ドビュッシー&ストラヴィンスキー)をリリース予定。

オフィシャル・ホームページ
 http://www16.ocn.ne.jp/~m_ueno/index.html


山本宣夫 Yamamoto Nobuo 
     
ピアノ技術者、制作者

 1948年大阪府堺市に生まれる。1966年よりピアノの製造と修理に携わる。1974年、近畿ピアノサービスセンター設立。1983年、ベーゼンドルファー社(ウィーン)で研修。その後、オーストリア・ウィーン芸術史博物館の専属フォルテピアノ修復師となり、以後毎年同博物館にて修復に携わり現在に至る。また歴史的鍵盤楽器の収集にも努める。
、1998年「スペース クリストーフォリ 堺」(フォルテピアノのためのホール)オープン。1999年グラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ(ピアノ
発明者、イタリア人バルトロメオ・クリストーフォリが1726年に製作したピアノ)の完全複製楽器を完成させ、ピアノ制作者、調律師のための世界大会(浜松)で展示・コンサートが行われた。2000年5月ユーロピアノコングレス2000(イタリア)にこのクリストーフォリの復元楽器が招待され、コンサート・レクチャー・展示が行われた。引き続き6〜7月の2ヶ月間ウィーン芸術史博物館において一般公開されて話題を呼んだ。6月18日には、同博物館(新王宮)でコンサート、7月22日ウィーン科学博物館にてクリストーフォリピアノコンサートが開催された。



シュタインとシュトライヒャー

2005年11月 山本宣夫       

今回の企画は、ピアノの打弦機構の変遷、すなわちピアノの構造と音の響きの関係が、その時代のピアノを演奏する作曲家たちの嗜好に影響を与え、どのような独自の音楽を生み出したか、2台のフォルテピアノを使ってその時代の作曲家の作品を通じて探ろうとするものである。

前半は、5オクターブのシュタイン・モデルのフォルテピアノを使って、小さいボデーに革で巻かれた小さなハンマーを持つ18世紀末の5オクターブのピアノから、モーツァルト、初期ベートーヴェンの魅力を再認識してみたい。
後半で使われる1846年に作られたウィーンのフォルテピアノ、ヨハン・バプテスト・シュトライヒャーは、昨年まで5年に及んだ旧シリーズには、登場していないメーカーで、シューマン、ブラームスの愛したピアノとして、オーストリアのブラームス記念館に保管されているピアノと同型のものである。ウィーンの持つ独自な響きの中に、イギリス式のタッチから来る力強い低音が魅力で、シューマン、ブラームスを魅了したその特徴ある響きを楽しんでいただきたい。

1700年頃、イタリアでピアノが誕生し、まもなくドイツでも、そのコピーが試作され、その後のドイツにおけるピアノ製作の歴史の幕開けとなった。モーツァルトが1777年に、ヨハン・アンドレアス・シュタインのフォルテピアノに出会い、その性能を絶賛したことは、「モーツァルトの手紙」からも周知の事実である。そして次第にドイツばかりでなく、イギリスでもピアノ作りは盛んになっていったが、それに引き換え、この頃からチェンバロは、ピアノの魅力に押され、しだいにその姿を消すこととなる。その後、ドイツで製作されたピアノとイギリスで作られたピアノは、それぞれ違った打弦機構を持つものとなり、それぞれ、ドイツ式、イギリス式と呼ばれる。そして、この2種類の打弦機構は、19世紀中頃まで併存した。
そのひとつの打弦機構は、ヨハン・アンドレアス・シュタインによって考案されたと言われるドイツ式打弦機構で、跳ね返り式とも呼ばれ、タッチは軽く、音色も明るいことを特徴としている。一方、イギリス式打弦機構は、突き上げ式とも呼ばれ、タッチはドイツ式よりも重く、力強い響きを特徴としている。その後、ドイツ式打弦機構は、ヨハン・アンドレアス・シュタインの子供たちに継承され、ウィーンにもたらされ、ウィーン式打弦機構と呼ばれるに至った。しかし、その後19世紀中ごろには、ウィーン式の打弦機構を備えたピアノから、ピアニストは次第に離れていくこととなる。
ヨハン・アンドレアス・シュタインの孫に当たるヨハン・バプテスト・シュトライヒャーは、1840年にパリのエラール社を訪問し、イギリス式打弦機構を学んだ。その結果、バプテスト・シュトライヒャーは、ウィーン式打弦機構にイギリス式の打弦機構の一部分を取り入れることを試みた。すなわち、ウィーン式アクションの構造を持ちながら、ハンマーはイギリス式の突き上げ式の方法で弦を打つ。ウィーンの伝統を持つ構造と響きを継承しつつ、当時流行となったイギリス式のタッチを組み入れ両方の持つ特徴を折衷させ、独特の打弦機構を考案するに至った。そのイギリス式の特徴あるタッチから力強い大きな音量が可能な新しい打弦機構の誕生である。これによりウィーン式のピアノの持つ独自な響きの中に、イギリス式のタッチから来る力強い低音の魅力が加わった。そして、バプテストは、アングロジャーマン方式と呼ばれるこの打弦機構で特許を取得した。

今回使用のヨハン・バプテスト・シュトライヒャーは、それまで作られていたウィーン式打弦機構を備えるシュトライヒャーのピアノとは大きな違いを持つもので、このアングロジャーマン・アクションと呼ばれる独自の新しいパテント・アクションを備えている。このドイツ、イギリス折衷式新方式の打弦機構は、シュトライヒャー独自のパテントであるため、他のメーカーは、採用できなかった。

ピアノの変遷には、音域の拡大、ハンマーヘッドの形状、そして、組成材料が大きな役割を担っていて、その時代のピアノの特徴が作曲家の音楽の特徴とも一致しているといえよう。

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